●「辻静雄コレクションⅠ」辻静雄*1

別に材料が手許になくたってかまわない。彼は古い料理の本をひもといて、一品ずつなめまわすようにして読破しているといっているが、ちょうど音楽家が楽譜を読むと、内なる耳に妙なる音が鳴り響くように、彼はその料理のでき上がっていく過程がまるで目の前に彷彿と現れるようで、その味、香り、匂いなど、渾然と沸き起こり、思わずため息をつくといいう。一生をこの仕事にたくしてきた料理人にとって、古い料理の本はこうした存在理由をもっているものなのだ。

          ・・・・・p431 どの料理書を読めばいいのか