●「霧のむこうに住みたい」須賀敦子*1

この列車は、ひとつひとつの駅でひろわれるのを待っている「時間」を、いわば集金人のようにひとつひとつ集めながら走っているのだ。列車が「時間」にしたがって走っているのではなくて。
ひろわれた「時間」は、列車のおかげではじめてひとつのつながった流れになる。いっぽう、列車にひろいそこなわれた「時間」は、あちらこちらの駅で孤立して朝を迎え、そのまま、摘まれないキノコみたいにくさってしまう。
列車がこの仕事をするのは、夜だけだ。夜になると、「時間」は冷たい流れ星のように空から降ってきて、駅で列車に連れ去られるのを待っている。

               ・・・・・p116

ああ、やっぱりすきだ。

*1:

霧のむこうに住みたい

霧のむこうに住みたい