●「スティル・ライフ池澤夏樹*1
窓ガラス越しに雪を見ながら連想したあまりにも印象的で忘れられない文章。

雪が降るのではない。雪片に満たされた宇宙を、ぼくを乗せたこの世界の方が上へ上へと昇っているのだ。静に、滑らかに、着実に、世界は上昇を続けていた。ぼくはその世界の真中に置かれた岩に坐っていた。岩が昇り、海の全部が、厖大な量の水のすべてが波一つ立てずに昇り、それを見るぼくが昇っている。雪はその限りない上昇の指標でしかなかった。

*1:

スティル・ライフ (中公文庫)

スティル・ライフ (中公文庫)