●「遠い水平線」アントニオ・タブッキ・著/須賀敦子・訳*1
合間に、ぽつりぽつり読む。
わりと好きな30年代のタンゴPor una cabezaが文中にふと偶然出てくる。聴きたくなる。
カルロス・ガルデル作曲、日本語訳は「首の差で」。レトロな雰囲気ムンムーンのとてもお洒落な曲。



終盤に出てきた気になる文章。

方法はいろいろでも、一見つじつまがあわないようでも、それは、未知の幾何学のように、揺るぎない論理にしたがっている。
それは、直感では理解できても、合理的な順序で表現したり、理由づけをすることは不可能な、なにか、だった。
彼は思った。ものにはそれ自体の秩序があって、偶然に起こることなど、なにもない。
では、偶然とは、いったいなにか。ほかでもない、それは、存在するものたちを、目に見えないところで繋げている真の関係を、われわれが、見つけ得ないでいることなのだ。


、、、ふと連想した印象的な文章。

出会いは、音もなく、不意に訪れる。
それまで本質を秘めていた垂幕がはらりと落ちて、対象と自分をつなげる根源のつながり、まるで地下トンネルで結ばれたふだんは見えない網目のようなつながりが、そのとき、地上にかたちをあらわし、対象と自分が、あたらしい、いきいきとした関係で結ばれていることに気づくのだ。目をあけてもあけても紗のヴェールを通しての理解だったものが、肉眼で見えるようになる。
――――「時のかけらたち」須賀敦子*2 ファッツィーニのアトリエより

*1:

遠い水平線 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

遠い水平線 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

*2:

時のかけらたち

時のかけらたち