茶箪笥の本
- 遠い霧の匂い
- 夜、仕事を終えて外に出たときに、霧ががかかっていると、あ、この匂いは知ってる、と思う。
- あの灰色に濡れた、重たい、なつかしい霧がやってきた。
- 街頭の明かりの下を、霧が生き物のように走るのを見たこともあった。
- 歌というよりは、ふわふわした、たよりない雲が空をわたっていくような音だった。
- 私の足は幻のブレーキを踏んでいた。
- 記憶の中のミラノには、いまもあの霧が静かに流れている。
- チェデルナのミラノ、私のミラノ
- 場内の照明が徐々に暗くなっていくあの魔法にかけられたような瞬間
- もっと正直にいえば、この特殊な「種族」が社会の一隅でひそやかに発散しつづける、そこはかとない匂いのようなものについて、
- 以前よりも距離をおいて眺める余裕をとりもどしたかにみえる。
- 花などが「凋む」という意味の言葉を使っている。
- 真珠は人肌にふれないと徐々に死んでしまうというところから、
- 歌劇の魅力が私の血のなかに、溶けこんでしまった
- どこかで心のよりどころにしていた人を失った女のせつなさをふと感じて私はほとんどとまどった。
- プロシュッティ先生のパスコリ
- ジェノワの市街は、雨に洗われてキラキラかがやいていた。
- ものうい夏の午後
- うねるように続く山また山の景色は、
- オリーヴの木かげには飼料用の豆科の草が繁っていて、紫や、うす桃色の花が風に匂った。
- 並木道の菩提樹の花の薫りにぴったりと合わさった。
- ほとんど目に見えないところで咲いているこの花の匂いは、記憶の中でだんだんと凝縮され、象徴化されていって、、、あれとおなじ匂いに再会することはできないだろう。
- 私の内部にじわじわと浸透していったのである。
- ジャスミンの薫りが階下の中庭からつよく匂ってくる暗闇で黙って聞いている。
- 澄んだ夜気をつたわって響いた。
- 月はどこだっけ?明けゆく真珠色のなかで、空はたしかに見えていた。アーモンドとリンゴの木が、もっとよく見ようとしてすらりと伸びたかにみえた。ずっとむこうの雲の暗さから稲妻が風に乗ってくる。そのとき、野良から声がひとつ。キウ・・・・・
- 投げだされたような音が、こころに沁みる。
- 軋むような音が、死への思いと、つめたい田園の朝の空気のなかで、重なる。
好きなフレーズ多し。まるできらりきらり光を放つよう。
*1: ミラノ霧の風景―須賀敦子コレクション (白水Uブックス―エッセイの小径)