茶箪笥の本
- 春一番に咲く黄色い泡のようなミモザの花
- 午後から降り出した細かい雨に空気がしっとりと湿気をふくんでいた。
- 暗礁に乗り上げた船のように自分の進む方向がわからなくなって、留学先のローマで途方にくれていたとき、
- 不親切の権化みたいな人物が
- 目を凝らさないと見えない小さな古い傷のようにうっすらとではあるけれど、はっきりと覚えていた。
- 私は水の表面に落ちた油のしみのように、ルチアをゲットに結びつけたがって空想の輪をひろげる自分を制した。
- 便利か便利でないかという観点は埒外に置きたがる傾向がある。
- 川風はまだつめたかった。
- 信じられないほど見事な、淡い色あいのパンジーが咲きこぼれていた。
- 道を歩いていても景色が目に入らず、意志だけに支えられて、体を固くして日々を送っていた。
- 中世の細密画にあるような金色のさざ波が、太陽の光をまぶしくし反射して海の表面に細かい絞り模様を描き、そのうえを、ときおり、カモメがゆるやかに飛びかう。
- 私のなかには、現実とは離れて、そんな穏やかさに満ちた島がひっそりとねむっていた。
- 息がつまるほど美しいヴェネツィアのプロフィールがみえる。
- 時間に逆らってもだめなの。私だって、ずいぶん待ったわ。
- きみのふくれっつら。ずっとあとまで、夫はあの奇妙な新婚旅行を思い出して、私をからかった。そのたびに、アクイレイナの聖堂の床の、波をくぐって泳いでいたサカナの大群が、記憶の中できらきらと光った。
- サフラン色にくれかかった水平線に、
- どこの国語や方言にも、国や地方の歴史が、遺伝子をぎっしり組み込んで流れる血液みたいに、表面からはわからない語感のすみずみにまで浸透している
- ジュデッカ運河の水面が、おそい午後の陽光をいっぱいに受けて、数千の星がまたたくようにきらめいていた。
- 光源氏をとりまく女性たちと、ヴェネツィアのコルティジャーネは根本的に大差ないといえる。いや、経済的な自立度では、そして思想的にさえ、彼女たちの多くはより「高級」だったとさえいえるかもしれない。
- 淡い、小さな泡のような安堵が、
須賀さんが歩いたイタリアの地を旅したいな。わたしの須賀敦子ブーム到来か。
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